海外ドラマ「HOMELAND」で流れるJAZZに注目してみた

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Huluで視聴できる海外ドラマ「HOMELAND / ホームランド」は現代における戦争、とりわけテロリズムについて描いた物語です。CIAがアルカーイダと繰り広げる緊張感とリアリティある情報戦はスパイドラマとして完成度が高く、視聴者は常に引きこまれます。

そして同時に、このドラマは人間の内面、人間関係といういわゆるヒューマンドラマという部分をかなり重要視しています。登場人物は個性がありながら、どこまでも人間らしいです。諜報活動、戦争という分野の最前線で戦う彼らならではの葛藤が丁寧(リアルに)に描かれているドラマです。

また脚本や映像、音楽、俳優の演技等様々な面で評価されエミー賞、ゴールデン・グローブ賞など数々の賞をうけており、それほどの大作なので簡単には語り尽くせません。

今回は主人公キャリー・マティソン(クレア・デインズ)とジャズの観点からこのドラマを掘り下げてみたいと思います。物語の一部にも触れるので未視聴の方はご注意ください。

キャリー・マティソンとジャズの関係

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HOMELANDを視聴していると、オープニング、エンディングにはじまり、いろいろなシーンでジャズが流れていることに気づくと思います。

キャリーはジャズ愛好家。オープニングでは幼少期の彼女がトランペットを吹く映像や、ピアノの前に立つ写真が挿入されていることから、演奏家でもあることが窺えます。ジャズ自体は物語と直接関係していないものの、キャリーという人物を語る上では非常に重要な役割を持っています。

一言でいえば、キャリーはジャズを擬人化したような存在。あまりに突飛に聞こえるかも知れませんが、おそらく制作陣はそれを意図しているでしょう。

まず、ジャズという音楽は多くの人(ジャズを普段聞かない人)のイメージにあるように即興音楽です。時間、場所、周りのプレイヤーの演奏など様々な要因が重なって演奏が発展していきます。時には予想もしないような方向に発展したりも。

それはそのままキャリーというキャラクターに置き換える事ができます。彼女はCIA職員として非常に優秀だが、時に同僚たちも予想できない突発的な行動をとる。作戦担当官でありながら、その時の状況次第では作戦を無視することも辞さないのです。

ジャズはスリリングです。あえて不協和(響きが綺麗ではない)な音を選んだり、難解なリズム、指が絡まりそうな高速なフレーズを演奏に組み込んでスリルを楽しみます。キャリーもまたどこかでスリルを楽しんでいるようにすら見える。

彼女はバーで軽い男を寄せ付けないために結婚指輪をはめている。普通はそのためにわざわざ大きいダイヤの付いた指輪なんて用意しないでしょう。第一話の冒頭でキャリーはCIA本部での会議に遅刻する。急いで準備する彼女が指輪を外すシーンがありますが、おそらく彼女はバーに行き夜な夜な酒を飲んでいたのでしょう。また、股間をウェットティッシュで拭うような動作もあり、あるいは彼女は男と行為を終え、シャワーも浴びずに帰宅したのかもしれません。

第六話でニコラス・ブロディ(ダミアン・ルイス)とバーで飲むシーンでは、幼少期に友達と度胸試しをよくやっていて、男の子にも負けなかったと語っています。きっとブロディと関係を持つことも彼女にとってはスリリングでエキサイティングだったに違いありません。

第六話での冒頭、ポリグラフを提案するシーンのあとのソール・ベレンソン(マンディ・パティンキン)との会話からジャズピアニスト、セロニアス・モンク直筆サイン入りのアルバム「Monk’s Dream」を所持していることがわかります。

彼女の自室にもセロニアス・モンクのアルバムが飾られており、かなり熱狂的なファンであることが窺えますが、実はそのセロニアス・モンクも晩年はキャリーと同じ双極性障害だったと言われています。これについて劇中では全く語られていません。この点からも制作陣の意図が感じられます。

HOMELANDで流れるジャズ一覧

Terminal 7 – Tomasz Stanko

第一話

ヴァージル(デヴィッド・マルシアーノ)に薬の服用、気分障害がバレ責められ、さらに帰宅を待ち伏せていたソールに無断でブロディの監視していることを叱責、出頭を促したあと、ベッドで寝そべりながらiPodでキャリーが聴いていた曲。立て続けに責められ傷心、困惑している彼女の精神を表現するにはよくマッチングしているように聴こえるが、そんな気分なときに自ら聴くにはすこし雰囲気がダークすぎるのでは……?

結局この後彼女は居ても立ってもいられなくなり、ダミーの結婚指輪をはめて夜のバーに繰り出します。

Straight, No Chaser – Thelonious Monk

第十話

第九話で情報提供者から、テロリスト・ウォーカーとつながりをもつサウジアラビアの外交官マンスール・ザハラニの情報を聞き出したキャリー。ザハラニの弱みを調べあげたうえで、彼を尋問するために銀行に協力を仰ぎます。その銀行へ向かう車内でキャリーが流していた曲です。

軽快で勢いのあるジャズブルースは、仕事がうまく行っているキャリーの心情を表現しているように思えます。彼女が敬愛するセロニアス・モンクのアルバムであることを考えると、あるいは彼女は日課としてこのアルバムを車内BGMに選んでいるのかもしれません。

Thelonious

ちなみにこれがセロニアス・モンクです。誰に聞いても、間違いなくジャズの歴史における偉人の一人としての認識に異論を持つ人はいないでしょう。「Straight, No Chaser」は彼の曲の中でもジャズスタンダード曲として非常に有名で、演奏される機会も多いです。

My Funny Valentine – Miles Davis

第十話

ブロディから電話で会いたいと言われ、自宅に彼を迎えるために彼女が再生したCDから流れた曲(実際のアルバムの一曲目)です。軽やかで美しいレッドーガーランドのピアノリフから始まり、一転、スローでムーディーなマイルス・デイヴィスのトランペットで曲に入ります。

普段しないくらいバッチリとメイクし、ワインも用意して準備万端。ザハラニへの尋問も成功し、一度破局したブロディとの関係が修復を期待できるのだから気分も高まってしかたがないはず。

しかし実際にはブロディは、キャリーとの過去の関係を口外しないことを約束させるために訪れただけでした。用を終えブロディは去り、一人になったキャリーは一滴も飲まれなかったワインを瓶ごと捨てて泣き崩れる。曲は流れたままにシーンは切り替わり、CIA本部に一人残るソールを映し出す。仕事に熱心すぎるあまり妻に離れられてしまい、彼もまた孤独を感じています。

曲が流れ始めたころは妖艶に聞こえてたはずのマイルスのトランペットが、物語の展開によってどこか物悲しいサウンドに聴こえてきます。

milesdavis

「My Funny Valentine」はジャズ界の巨匠、マイルス・ディヴィスのアルバム「Cookin」の一曲目に収録されている超有名曲です。ジャズ奏者あるいは愛好家であるならおそらく一度は聞いたことがあるアルバムでしょう。ジャズを聴き始めたいと思う人がいたらぜひおすすめしたいアルバムのひとつです。

マイルスのアルバムもまた彼女の自室に飾られており、シーズン2以降でも聴くことができます。

Trista – Tomasz Stanko Quartet

第十一話

結局ウォーカーを捕らえられず自爆テロに遭い負傷し、病院に搬送され薬を飲めずに双極性障害の症状が現れるキャリー。躁状態の中でアブ・ナジールの行動パターンをリストアップし、空白の二年間のアブ・ナジールの身に起きた出来事に重要な意味があることを見出す。

情報をブロディに求めて電話し「会って直接話そう」「家に行く」といわれ、まるで第十話の時のように、彼を迎えるために爆破の傷を化粧で隠したり、スカーフを巻いたり、イヤリングを付けたり外したりするキャリー。

前回よりも更に酷なことに、玄関に現れたのは、ブロディからキャリーとの肉体関係や無認可の違法な監視について聞き、部下とともに駆けつけたCIA副長官のデイヴィッド・エスティース(デヴィッド・ヘアウッド)でした。

キャリーの持ちだした機密情報の回収と、クビの宣告によって彼女がパニック状態になる映像の中、対照的に静かに、淡々と曲が流れていく。

前回までの好調がすべて無駄になったうえ、畳み掛けるように悲劇に見舞われるキャリー。HOMELAND全編に言えることですが、とにかく可哀想でしかたありません。いつもいつも、ちょっといいことがあるとその2倍以上悪いことが待っているのです。

まとめ

上記の一覧からもわかるように、HOMELANDにおけるジャズは、キャリーの心情に変化があった時に再生されます。そのほとんどは追いつめられたときに流れるのが不憫でなりません。「My Funny Valentine」のように、いいシーンと見せかけて落とすパターンもあって、それが一つの曲中だから面白い。ですが、やはり不憫です。

物語と直接関係しない演出や音楽に注目するのも、作品を楽しむ手段のひとつです。海外ドラマはとくにお金も力も入っているためにそういった要素が多いのではないのでしょうか?

Huluでは現在シーズン1~3を視聴することができます。2週間は無料トライアルがあるので(2週間以内に登録解除すれば完全無料)、もう一度サクッと見返したい人には特におすすめです。

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おまけ

HOMELANDの音楽というのはジャズだけではありません。例えば第五話でブロディの見張り役だったアフザル・ハミドを捕らえテロに関する尋問をする際、拷問に使っていたあの轟音も実はれっきとした曲です。

ジャズから一転して恐ろしいほどの轟音ですが、興味がある人は聞いてみてください。くれぐれも電車の中などで聞かないように。再生する際は音量に注意です。

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